2012年08月05日
怪奇小説 ”産廃(貴方の知らない業界)”
いろいろな業種、事業者から出る廃棄物等を
産業廃棄物と言います。
病院から出るものも産業廃棄物の1つです。
通常、幾つかの種類に別けられています。
街の収集に出せる一般可燃物、一般不燃物。
専門業者へ委託する感染症等の可能性のある可燃物、不燃物。
輸液バッグ、針、注射器、その他医療廃棄物・・・。
感染症の可能性がある物は袋を二重にして
記号を書きます。
その他の医療廃棄物も専用の容器に入れ
記号を書きます。
略号、記号の意味や種類は業界秘密で
ここでは伏せて置きます。
どちらも専用伝票(マニフェスト)を書きます。
基本的に中身の見えない乳白色の袋や容器に
なっています。
ある日の事です。
専用の保冷車に乗って大手医療法人の大型総合病院へ
収集にいきました。
積込を終えてマニフェスト(専用伝票)を書きます。
中身の確認はしません。
1時預りと運搬、最終処理業者への
引き渡しが仕事です。
時間が遅くなったので、その日は車の荷室の
確認をして帰る事にしました。
庫内での転倒、破損、荷崩れ等がないか
点検していると、積み山が斜めの物が有ります。
蓋がよく閉まっていないものが有るようです。
蓋の閉まりを確認しながら山を積み直して
遂に蓋の閉まっていない容器を見つけました。
今まで中身を見る事も、気にする事も
無かったのですが、つい蓋を開けて中を
視て仕舞いました。
そこには、・・・。
抜いた歯ぐらいならショックはありません。
事故や病気で切断した手足、
抜き取った目玉や内臓、その他が
どう処理されるのか、
今まで考えた事が有りませんでした。
持ち主に返される話も聞いたことが有りません。
それらは、全て産業廃棄物として
処理されていたのです。
背中を冷たい汗が流れ、周囲の空気が澱み
冷気が生温く感じられます。
胸を締め付けられる様に息苦しくなり、
吐き気もします。
蓋を閉じて、積み直しもそこそこにして
保冷車を施錠しました。
後日、またあの病院へ収集に向かいました。
積込を終えて伝票を書いていると
担当の職員が言いました。
”貴方、あの箱の中が何か知っているのね。
中を視たのかしら。”
”えっ! どっ、どうして・・・。”
”中身が何かを知っている人は取り扱いや態度で
直ぐに判るの。”
僕は視てはいけないものを視てしまったので
しょうか。
知ってはいけないものを知ってしまったので
しょうか。
最終処理業者がどう処理するのか、とても
気になりますが怖くて聞くことが出来ません。
”知らない事がお気楽で幸せな事も有る。”
と思う今日この頃です。
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