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中江田電子

気まぐれ日記 つぶやき

僕の歯医者日記

 


僕の歯医者日記

 1991年1月のある水曜日、突然虫歯が
痛み出した。以前に治療をし詰め物をした所が
取れてしまって放っ置いたためだ。

 その日、私は諸用であるメーカーの営業所へ出かけていた。
各種のカタログや、懸案になっていた用事を済ませるためである。
その日は朝から痛んでいたのだが、我慢の範囲であったため
薬も飲まずにいた。話が済んだ頃、女子社員がコーヒーを
持ってきてくれた。私は、気を良くして迂闊にもそのコーヒーに
砂糖を入れて飲んだのだ。しまった、と思った時はもう遅く
虫歯の痛みは耐えがたく、所長とも話がしたかったのだが、
早々にその場をあとにした。
実際信じられない位早く、痛みが強くなったのだ。

 車を運転するのだが、余りの痛みに意識が遠くなるようで、
他人から虫歯の痛みの話はよく聞いていたが、
実際に自分が体験してみてこれ程とは、思わなかった。

 頭の中では、
今日は、あと2件ほど用事があり果して済ます事ができるだろうか。”
虫歯の痛みに気を取られて事故を起こさない様にしなくては。”
今、走っている道ぞいで、一番近い薬屋はどこか・・・。”
この痛みは、これ以上強くなるのか。何時まで続くのか・・。”
もう、我慢の限界だ・・空き地に車を止めようか”
痛いよー 助けてー・・・・。”

 あった、あった、助かった。薬屋があったのだ。
店内に入ると既に客がいてなにやら店員と話をしている。
(早くしろー。こっちは虫歯が痛くて意識がもうろうとしてきた。)
5秒、10秒、もう限界だ。

ちょっとすいません、虫歯の痛み止めありますか?”
できるだけ強力で即効性のもの”

 車に戻るとすぐに2錠飲んだ。
(1回1錠と店員が説明してくれたが)
気分だけでも早く苦痛から逃れたいのだ。

 なんとかその日は、強力痛み止めのお陰で無事のこる2件の
用事をすませることができたのだが・・・・。
苦痛に満ちた受難の日々は今日始ったばかりだ。

 歯医者に行くには、非常な勇気と決断力がいる。
私の場合がそうだ。会社の同僚や事務員に
何処の歯医者が丁寧か、早く直してくれるのか、
いろいろきいて回ったのだが、結局何処へいくとも
決心がつかず、不安は増すばかりだった。
 初診日の朝、保険証を持って家をでたのだが、
さて何処の歯医者に行こうかなかなか決断がつかない。
取り敢えず町内にある歯医者を2軒3軒と回っては
見たものの、如何にも不安で駐車場へ車を進めることができない。
結局午前中は、隣町の歯医者まで見て回ったが何処のドアも開けなかった。

 午前の診療時間は終った。

 午後の診療時間まで、約2時間ある。気持を落着けて
午後は必ず何処かの歯医者へ行こうと、固く決心して
本屋で時間潰しをすることにしたが・・・。
立ち読みなんか、出来る訳ない。
ただ、ただ不安は増すばかりだった。

 1991年1月30日午後2時歯医者のドアを開ける。
歯医者というのは、何処も同じなのだろうか?
ぼろぼろになった古い雑誌や本クッションの薄い長い椅子、
押し黙ったまま下を向いた人たち、冷たい床、微かに
匂う薬品独特の臭い・・・。
 ドアを開けた時何だか場違いな所へ来てしまったような
感覚がした。既に何人かの人が待っていたが、
皆押し黙ったまま上の空で雑誌をめくっていた。

いやーな雰囲気だなー”

 やがて私より前に来ていた人たちが、皆診察室へ消えた。
一人待合い室に残った私は、待合室の中を観察した。
色々な虫歯の写真や顎の写真虫歯にならない為の
正しい歯の磨きかた・・・・。
部屋の壁いっぱい、そんなポスターや写真が貼ってある。
どうせ貼るなら、風景画や小犬の写真の方がいいのに。
 やがて先に入っていった人たちの治療が始った。
治療室の中から、いやーなあの音が聞えてきた。
背筋がぞくぞくして、全身の毛が逆立つ様な、
不安をかきたて恐怖心をあおるあの音。さらに駄目押しの
子供の泣き声・・・。
 私は帰りたい気分になった。みぞおちの辺りを何か
重たいもので押されるような感覚がして気分が悪くなった。
深呼吸をしても何だか空気が薄いようで、酸欠で今にも
倒れそうな感じだ。ああ、やっぱり来るんじゃなかったと、
後悔し始めた頃1人治療室から出てきた。顔面蒼白、
苦虫を噛んだ様な顔つき。もう緊張の限界だ。
こんな所に居たくないょー。

 ”みやび様中へどうぞ、奥から2番目の治療台へ掛けてください。”

遂に不安と苦痛に満ちた治療が始まった。
案内されるまま診療台へ、腰をかける。ああ、やだなー不安だよー
南向きに診療台が5つ並んでいる。窓の所に棚があって花が飾ってある。
好く晴れた午後で日差しがとても暖かく、ここが歯医者でなければ、
とても幸せな気分になれただろう。耳を澄ますと
BGMにクラシック音楽が流れている。私の左右では、苦痛なのか
それとも恐怖なのか、顔をゆがめ必死に医者の治療に堪え忍んでいる
人がいる。さらにその向こうでは、子供が・・・・
 私の背後が騒がしくなった。治療の準備が始ったのだ。
頭の後やや右後方に各種の器具を置く台があり、そこに小さなバットを
女の子が置いた。そっと頭を回し横目で見ると、金属の筒の中に
入った注射器だった。
 やがて私のそばに、30代と思われる男の人がやってきた。

椅子を倒しますよー”

 歯医者の治療台と床屋の椅子の感じがとても良く似ていると思った。
しかし決定的に違うのは、緊張感と恐怖心である。
床屋の方は、女の子が剃刀を持ってきても、これ程の緊張感と恐怖心はない。

口を開けてください。”
ああ、ここですね。”
痛いですか”
うーん”

 その男の人は、独り言を何か言っては頷き納得している。

それでは、一応レントゲンを取ります。”
麻酔を射ちますからねー。痛くないですよー。安心してください。”
はい、口をあけてー。”

 ち、ちょっと待って、まだこっちは心の準備が・・・
うっ、うっ、おげげげげ。痛・・

 やがて麻酔が利いてきた。ほっぺたの辺りが感覚が無くなってきた感じだ
私の魅力的な唇も腫れた感じで、感覚が無い。
これなら、大して苦痛も感じずに治療が終るだろう。

 ”口を開いてー、力を抜いてー、緊張しなくてもいいですからねー”

 口の中へ何だか変な管を2本入れられた。
不快と恐怖を象徴する器具を持って大きな手が私の口の方へ迫ってきた。
マスクをした顔が近づいてきた。
睨み返す勇気が無かったので私は目を閉じた。
 不快な音と振動が私の顎に頭に首に響いてきた。
いや首から上、全部に響いてきた。
神経を逆なでする様な感覚に私は必死で耐えた。
精神的な苦痛の通り過ぎるのをただじっと待った。
肉体的な苦痛が感じられないのが、ただ一つの安心だった。

 私は突然、声にならない声を上げた。
大口を開けて恐怖の器具が中にあるのでまともな声が出るはずがない。
顎の辺りから頭にかけて激痛が走ったのだ。
私の頭の中は、パニック状態になった。
ようやく、緊張がとけて体の力が弛んだ時だった、だけに・・・。
じわーと目が濡れる感じがした。

 医者は再、私に麻酔を射った。
虫歯の穴の中に直接針をいれて・・・。
私の精神力は、もう限界だった。
虫歯が痛くて眠れない夜が何日か続いたが、これ程の苦痛は無かった。
不安な目で医者や看護婦を見るのだが、その目は、

貴方自身が悪いのよ、私たちの麻酔技術や治療技術か悪いわけじゃないの”
これ以上、手間をとらせるんじゃーねーよ、少しは我慢をしろ”

と云っているようで、とても怖かった。
私は持てる演技力を精一杯使って恐怖と哀しみの
目を女の子に向けた。しかし、女の子は無情にも

痛みは無いですね”

といって管を私の口の中へ突っ込んだのだった。

 今日は、1994年9月5日である。
数年前から中断していた、治療をついに再開した。
約2週間前コーラを飲んでいる時に突如痛みだしたのだ
数年前に大変な勇気と決断力を起させ歯医者へ
向かわせたのもこの歯だった。当時この歯は抜く
予定になっていたのだが、臆病な私は痛みが消えた
のを幸いに通うのを止めてしまったのだ。
円高の影響なのか最近は輸入ジュースが安くなっている。
我が家でも通常売られている半額のコーラを1ケース買ってきていた。
その味は特にまずくなく、わりとすんなり喉を通っていたのだが・・・。
 虫歯の痛みは、とても堪え難く想像を絶する程で
買い置きの頭痛薬は総て飲み干してしまった。
バッファリンは通常は2錠のところ4錠を服用し全く効目なし、
ノーシンはまあまあの薬効でやや効果あり。
昼間は仕事で何とか我慢できるが、夜が長い事。
レイトショーの映画を観たり、本を読んだり段々寝不足になってきました。
そして、ついに治療を再開しようと決心させたのは、
懇意にしている御客様の家で昼食をご馳走になったときだった。
 その痛みは、歯だけではなく耳の中、顎の下、側頭部や鼻までも
襲いはじめたのだ。とてもじっとしてはいられず、やっとの思いで車に
乗り込みエンジンをスタートさせたが気持ちは落ち着かず
果たして無事に家までたどり着けるのか心配になってきた。
さらに、悪い事は重なるもので何と目眩がするではないか。
もうだめかと、不安になる気持ちを押さえてゆっくり車をスタートさせた。

 1994年9月5日午前10時3年ぶりに歯医者の待合室に居ます。
3年前の予約券を出し

あの~私の順番まだでしょうか・・・・・。”
・・・・・30分後に治療します。”

 再び治療台の上に横になりました。3年前の先生がやってきて

えーと、どこまで治療しましたっけ?”

遂に奥歯を抜く事に成りました。私は、生えるべき歯は全て生えています。
(いわゆる親知らずもです。そして歯並びも悪くない。)
それが、遂に1本亡くなるのです。何という事だ。
隣を見ると口の中を写真に撮られている。いったい何に使うのだろうか。
妙な器具を口の中に入れ無理矢理大きく開いている。拳が入りそうだ。
私も口の中の写真を撮るのだろうか。段々不安に成ってきた。
 まず、麻酔を1本打ち奥歯のレントゲン写真を1枚撮る。
そして、顎と歯のパノラマレントゲン写真を1枚、また麻酔を1本打つ。
出来あがったパノラマ写真を観ると根がしっかりしていて抜かなくても
良いようにみえるが、もう決断した事だ。覚悟を決めよう。

 “麻酔は効いていますね。すぐ抜けますから楽にしていてください。”

抜歯はわずか3秒で終わった。だが、非常にショックだったのは、
抜歯に使った器具が小さなバールというか、金てこというか全く原始的な
器具だった事である。もっと繊細で精密な器具を使って丁寧にゆっくりと
抜くものだと思っていたのである。

 今日の治療はこれで終わった。しかし、次回はどうなるのだろうか。
気の小さい私は、毎日が不安一杯である。
これを読んでる貴方、笑い事では有りません。
歯を大切にしましょう。
毎食後、きちんと歯を磨きましょう。
コーラは歯に良くありません。
たばこも良くありません。
歯にくっつく甘い食べ物も良くありません。
定期的に歯医者に行き検査を受けましょう。
歯を亡くしてからでは遅いのです。

 1994年9月12日11時50分またまた、
歯医者の診察台の上にいます。今日は果してどんな
治療が待っているのか。私はまだ、30前だが
この年になるまでに歯医者には数回通院した記憶がある。
しかし、どうしてこんなにも緊張するのだろうか?
小さいころ麻酔もせずに歯を治療し痛い思いをしたためだろうか。
あるいは、テレビや雑誌で歯科医が不正請求や不正診療をしているのを
見聞きしたためだろうか。とにかく、私は非常に緊張していた。
 今日の治療内容は親知らずを1本抜く事だった。
緊張とストレスの為に心臓麻痺を起さないか心配だった。
それほど歯医者が苦手なのだ。
 まず、麻酔を1本打ち、効いてくるまでの間に歯石を取ります。
つづいて、もう1本そして虫歯の中へ直接麻酔薬を散布しました。
いよいよ、歯を抜きます。今日は、金てこではなく
もう少し繊細な器具でした。しかし、抜くのには時間がかかり
緊張やストレスが倍増した様です。あーあ何という日だ。
どうして自分自身これほどの苦痛に絶えられるのか
不思議で成りません。ひょっとしたら私はマゾなのか?
苦痛が好きなのか。緊張感が好きなのか。ストレスが好きなのか。
いいえ、決してそうでは無いと思います。
何とか虫歯を無くそうという思いが歯医者へ足を向かわせるのです。
恐怖心を克服し勇気を持って診察台の上に横になる。
ここに僅かな満足感が有ります。ただそれだけです。
 私はとてもストイックだ。我慢強い。辛抱強い。
苦境に絶える精神力がある。しかし、世間ではこの程度は普通の様だ。

1994年9月5日、12日、19日と3回行われた
虫歯の治療がようやく終わった。
上顎の親知らずの抜歯2本。下顎の奥歯の虫歯の治療1本である。
抜歯の痛みは、当日だけで翌日からは安静にしていれば全く痛みはない。
ただ、どうしても飲み食いの時の刺激で軽い痛みは在るのだが
それも2日~3日で痛みは消えました。しかし、心の中には大変
大きな傷が残りました。歯を2本失うというのは私にとって、
大変な重大事件です。間違えなく今年の10大ニュースベスト1でしょう。
ロストバージンのショックや感じと同じではないでしょうか?。
今回の治療はこれでお終いと言われた時は本当に心底ホットしました。
あーあ、よかった。
それから、もう一つ私にはSM的感性が磨かれていないのか
あるいは無いように思いました。自分自身は苦痛やストレスにとても弱く
診療台の上に横になるだけで呼吸困難になり、心臓麻痺を
起しそうになるからです。他の人はどうなのでしょうか。
内科医院には、年寄りが沢山たむろして社交場になっていますが
歯科医院は、さすがに社交場といった雰囲気がありません。
治療を終え会計を済ませると皆すぐに帰ります。
歯科医院は客の回転がとてもよく他の客商売の業種から見ると
羨ましいのではないでしょうか。本当に逃げるように出て行きます。

 奥歯の治療は非常に簡単でした。小さい虫歯のせいか痛みや
苦痛はなくすぐに終わりました。そして、最も良かったことは
うがいをして吐き出す吐瀉物の中に歯のかけらや肉片、血などが
交じっていなかったことです。吐瀉物に歯のかけらや血などが交じって
いると心が鉛のように重くなり深い海の底へ沈んでしまった感じで、
何だか自分の内蔵を吐き出している様で吐き気がしてきます。
とにかく虫歯は小さいうちに直しましょう。これを読んでいる
貴方笑っていないで早く歯医者へ行って検診しましょう。

 それから詰め物が何時もと違っていました。
今までですと、銀(無機水銀合金)をつめるのですが、今回は
セラミックの様な物でした。無機水銀といっても人体に有害です。
何故、今まで使われていたのでしょうか。
無害だと思っていたのでしょうか。
口の中いっぱいに広がる金属イオン特有の味はどう見ても有害でしょう。
 それは、粘土のように柔らかいのですが、
紫外線を当てると硬化するようです。色は象牙色で注意して
見ないと治療痕が分かりません。これでしたら口を開けた時に
虫歯の治療痕が目立たなくてとても良いと思います。
私などは今までに治療し詰めた所や冠を全部セラミックに変えたい
くらいです。ほんと、目立たなくていいですよ。

 数年前から続いた歯医者日記はこれでお終いです。
少々大袈裟に書いた所も有りますが、決して他人の話しでは
ありません。皆さんも自分自身の歯を失うのです。
抜いた歯は決して生えてきません。治療の苦痛は自分自身に対する
甘えの代償です。その報いは非常に大きいのです。
今回の経験は、あまり感心が無かった歯について十分に
考えさせられました。
これからは、手や顔を洗うように歯も洗い磨きます。
二度とこんな苦痛を経験したくないから。

 

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